数学授業におけるクリティカル・シンキングにも社会的価値の観点を!
【概要】
数学教育コースの袴田綾斗講師らの共同研究グループは,これまで論理的な正しさに焦点が当てられてきた数学授業におけるクリティカル・シンキングに,社会性や倫理といった価値観を含めることの可能性を検討し,中学校・高等学校を対象とする教材開発と授業実践を行いました。
本研究では,「60秒チャレンジ」というゲームのルールに関して,その妥当性を様々な観点から検討し,新しいルールを提案するという教材が用いられました。これは,「社会的にオープンエンドな問題」と呼ばれるもので,数学的な正解が一つではない,多様な価値観に基づいて解決策を探究する問題です。
その結果,高校生たちは「年下の学年にも配慮すべきだ」といった自分たちの社会的価値観をもとに,平均値のみを指標とすることの問題点を指摘したり,データのばらつきに着目したりするなど,数学の知識を自発的に活用して新しいルールを提案する様子が見られました。また,提案の中に現れる生徒たちの社会的価値を評価するための指標(ルーブリック)も開発し,その有効性を確認しました。
【今後の波及効果】
これまでの数学教育は,唯一の正解を求める問題が中心でした。しかし,本研究で開発された教材や評価方法は,数学を使って実社会の問題を考え,他者と協調しながらより良い社会を築いていく力を育む,新しい授業のモデルを提示するものです。
特に,これまで評価が難しいとされてきたクリティカル・シンキングについて,生徒たちの価値観に着目した具体的な評価方法を示したことは,今後の教育研究の進展に大きく貢献することが期待されます。この研究成果は,数学の力を社会的な課題の解決に活かせる人材の育成につながるものと考えられます。
【論文情報】
〇 タイトル:Enhancing critical thinking in mathematics education: A rubric for students' social values
〇 著者:Yuichiro Hattori, Yuuki Inoue, Kazuki Matsubara, Ryoto Hakamata, Yoichiro Hisadomi
〇 掲載誌:International Electronic Journal of Mathematics Education
〇 URL:
https://doi.org/10.29333/iejme/16186